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枚葉インクジェットデジタル印刷機

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枚葉インクジェットデジタル印刷機について

インクジェットプリンタは1980年代半ばに世に出てきた。
最初に発売されたのは、エプソン「EP-101」。ピエゾ素子を使ったもので、当時の発売価格は25万円。
それまでプリンタの主流だったのはNECのワイヤドットプリンタだったが、インクジェットは音が静かで、高機能。高額であったにも拘わらず、企業向けに非常によく売れ、おかげでエプソンは黒字化に成功した。
これに追随したのがキヤノンで、こちらはサーマル方式を採用、発売価格は7万5千円。圧倒的価格差で、この「BJ10v」は売れに売れた。
インクジェットのウィークポイントは昔も今もヘッドノズルのつまりにある。インキ中にエアーがたまっていたり、インキが乾燥して固まってしまったりすると、ヘッドが詰まって、インキが吐出できなくなる。
キヤノンは低コストのサーマルヘッドを開発し、これをディスポーザブルヘッドにした。つまり、ヘッドとインクカートリッジを一体化し、ヘッドが目詰まりすれば捨てる、インクがなくなれば捨てる。使い捨てにすることで信頼性を確保した。そのため、本体価格は安くなり、一方で消耗品で稼ぐ、というビジネスモデルだ。
その後、多くの会社がインクジェットに参入し、いまや、レーザープリンタと並ぶ、プリンタのスタンダードとなっている。

そのインクジェットがグラフィックアーツ業界に登場したのは2008年DRUPA、富士フイルムのJET PRESS720やスクリーンのTruePresJet SXが展示された。JET PRESS 720が市場投入されたのが2016年なので実に8年が経過している。

一般的なヘッド。千鳥配列で長尺化する。
SAMBAヘッド。ワンパス専用に開発された。

汎用ヘッドの場合、千鳥配列で長尺化するが、ヘッドの位置がずれるため、着弾時のタイミングを合わせるのが難しい。また、ヘッドとヘッドの境目を制御するアルゴリズムも技術的ハードルが高い。
この点、SAMBAヘッドはワンパス専用に開発されており、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)という微細加工技術によって製造されている。JET PRESS 750s、LANDA、NS40、Primefire106に搭載されている。

水性顔料インク

ヘッドとともに重要なのがインクである。現在は水性顔料インクが主流である。
インクの中にエアーがあるとヘッドの目詰まりを起こすため、インク内のエアーを脱気する。また、インクが乾いてはいけない。乾くと飛ばなくなってしまう。けれども紙の上では乾かなければならない。これは矛盾しており、ヘッド上で乾かず、紙の上で乾くインクの開発が必要であった。水性顔料では、紙に定着補助剤をプレコートすることにより、インクの定着を図り、更に熱乾燥で乾かす。
プレコートするために薄紙への適性が悪く、また熱乾燥でシリンダの後ろにボイラーを積むため、両面印刷対応が難しい。これらを解決し、薄紙対応、両面を実現させるのがLANDAである。現在(2020年)、約10台が市場投入されており、今後の動向が注目される。

LED-UVインク

コモリのIS29(コニカミノルタブランドはKM-1)はLED-UVインクを使用する。UV硬化であるため、紙へのプレコートが不要で、オフセットで使える紙はほぼ使用できる。また、ボイラが不要なため、シリンダ下部に反転装置を設置することによって両面印刷が可能となる。
インクを80℃まで上げるため、ヘッドへの負荷が高く、水性顔料タイプに比べてヘッドの目詰まりが多くなる。また、UV硬化であるためミスト化したインクがUV光で硬化しヘッド周りに付着するなどの難点がある。
当社はIS29のβテストを行ったが、これらの課題をメーカーとともに、一つ一つ解決し、製品化に成功した。

印刷機メーカーとのコラボレーション

B2以上のサイズとなると、今までのPODメーカーのローラー搬送では精度を保てない。そこで印刷機メーカーとのコラボレーションが必要となる。
オフセット枚葉印刷機では爪搬送を行う。紙の一端を爪で加えて搬送するもので、この技術は印刷機メーカーしか持っていない。もはや一社で製品化する時代ではなくなった。
枚葉インクジェットの組み合わせは以下の通り。

メーカー製品名ヘッド搬送サイズ2020年時点
富士フイルムJet Press 750sDAIMATIXリョービ三菱B2発売中
コモリIS29コニカミノルタコモリB2発売中
コニカミノルタKM-1コニカミノルタコモリB2発売中
LANDALANDA S10DAIMATIXコモリB1発売中
コモリNS40DAIMATIXコモリB1βテスト中
HEIDELBERGPrimefire 106DAIMATIXHEIDELBERGB1※生産中止
キヤノンVoyagerキヤノンリョービ三菱B2開発中
※ハイデルベルグ社のリストラで10台販売した時点で生産中止が決まる。

薄紙、プレコートなし、両面印刷

水性顔料タイプはプレコートが必要で、そのため薄紙が苦手である。乾燥のためのボイラー設置のために両面印刷にも対応できない。
パッケージなどの厚紙印刷には問題なく対応できるが、商業印刷の場合、薄紙対応、両面対応が必須である。
LANDAは直接用紙にインク吐出せずに、一旦中間ベルトに吐出して画像形成し、中間ベルトの上で乾燥させて、インクの層を用紙に転写する、いわゆるオフセット方式である。
水性顔料インクは色域も広く、インクジェットには向いているが、乾燥が最大の難題である。LANDA方式はそれを解決する苦肉の策といえよう。
インクジェットはインクの転写を非接触で行えることが,大きなメリットであるが、中間ベルトを使うとそのメリットが失われる。また、中間ベルトは構造が複雑であり、本来、簡単な構造のインクジェットのメリットもなくなる。
速乾性の水性顔料インクの登場が期待されるが、今のところ、その実現は難しそうである。

B2サイズ機

富士フイルム JetPress 750s
キヤノン Voyager
LBm86L
コニカミノルタ KM-1

B1サイズ機

LANDA S10
コモリ NS40
ハイデルベルグ PrimeFire 106
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